月表面の微量水探査
長らく、月は砂漠のように水のない天体であると思われてきたが、近年のリモートセンシングにより、微量ながらも表面に水が存在することが示されている。レゴリスと呼ばれる月の砂の内部には、太陽系におけるさまざまな起源をもった水が存在しており、資源利用と科学的解明の両面から強い期待が持たれている。
太陽系の水同位体組成の概略
水分子(H2O)は、同位体 (H, D, 16O, 17O, 18O)の組み合わせによって、区別することができる。 月の水では、大きく分けて4種の源があると考えられている。それは
1)太陽風プロトンと月面酸化物の反応によるもの、
2)地球の水をもたらした隕石(小惑星起源)に含有される水
3)彗星がもたらす太陽系外縁部からの水
4)月が形成されたときから存在する天体内部の水
同位体比から見てみると、地球水と比べて1)は軽い元素で構成されており、4)は重い元素の比率が高いと考えられ、同位体比を測定することにより水の起源に迫ることができる。
同位体の測定は、質量分析器によってなされるのが通常であるが、宇宙搭載機器としては重量やサイズが問題となる。そこで、我々は同位体分子のわずかな光吸収の差異を利用したレーザー法を採用した。反射率99.995%を越える凹面鏡を相対させた光共振器を用いると、吸収に関わる光路長を1km以上にすることができ、レーザー波長を掃引することで吸収スペクトルを得ることができる。この方式をCavity Ring Down Spectroscopy(CRDS)と呼ぶ。従来型のCRDS装置では、光共振器の長さが50cm程度必要であったが、ADOREでは、長さ 5cm、重量1kg 以下に抑えてある。
CRDSの原理
共振器の長さを変化させ、光波長の半整数倍になれば、共振が発生し、内部の光強度は増大する。ここで、レーザー光を遮断すると、鏡からわずかに漏洩する光は、数μ秒の時定数で指数関数減衰する。このとき、レーザー波長をゆっくり掃引すると、水分子による吸収があるとき、減衰は速くなり、吸収がなければ減衰は遅い。このように吸収の程度を、出力側の光の減衰の時定数から算出することで吸収スペクトルを得る。